バレンタインからホワイトデーへ −11日前−





<火原和樹の場合>


「あああああ! どうしよう……」


 さっきからおれ、たぶん、同じことばっか口走ってると思う。
 だって、最近はそればっかり考えちゃうんだから、仕方ないんだけどさ。

 手のひらにある、赤っぽいピンク色の小箱を見つめてため息。
 中身はもうないけど、捨てることのできない、大切な箱。


 これは、バレンタインの日に、きみからもらった贈り物。


 寒空の中、登校中にきみに会えて、朝からラッキーだな〜、なんて思っていたら、突然、目の前にこれが現れて。
 面食らったおれに、きみは笑って、バレンタインの贈り物です、って言ったんだ。

 おれ、きみからもらえるなんてぜんぜん思っていなくて。
 ただ慌ててしまって、そのあと、きみに何て言ったか覚えていないんだ。
 ……不覚にも。


 でもね、それだけ嬉しかったんだよ、きみからの贈り物。
 箱の中身はいかにも手作り! のチョコレートケーキで。
 おれのためにきみがこれを作ってくれた、って思うと、おれは感動して涙出そうだったよ。

 兄貴に取られそうになって、必死で守ったときにできた腕の擦り傷は、おれの勲章。


 で、おれは今、きみへのお返しを何にしようかで悩んでる。
 だって、正直に言うと、おれ、今までホワイトデーのお返しなんて、選んだことないんだ。
 小学とか中学は、母さんが買ってきてくれたお返しをそのまま渡していたから。
 だから、すごく、すっごくすっごく悩んでる。


 きみは何が欲しいんだろう?
 何をあげれば喜んでくれるんだろう?


 そればかりが頭を駆け巡る。
 それしか考えられなくなってる。

 兄貴や母さんに聞こうと思ったけど、絶対にネタにされるから聞けないし。
 父さんに聞くと、出てくるお返しは全部母さんに結びつくからあまり参考にならないし。
 頼みの綱で聞いてみた柚木からは、高そうなお返しばかり提案されて、早々に諦めた。



「やっぱり、自分で考えるしかないかぁ〜」



 でも、絶対にきみに喜んでもらうお返しを考えるから。
 きみからもらったたくさんの想いを、今度はおれが贈るから。
 だから、楽しみに待っていてね!











――――― ホワイトデーまで あと 11日 ―――――