バレンタインからホワイトデーへ −17日前− <加地 葵の場合> 「……ふふっ」 閑静な住宅街のとある一軒家。 二階の日当たりの良い窓際の一角にあてがわれた自分の部屋で、僕は、とても幸せな気分に浸っていた。 僕の視線の先にあるのは、オーガンジーのラッピング用紙できれいに包装されていた、淡い碧色の小箱。 それは、バレンタインデーに僕が想い人から受け取った、『予想外の贈り物』。 偶然通りかかったある公園で、僕は自分の心の琴線に触れる音を奏でる少女を見つけた。 その音を聴くため、毎週末、ほぼ欠かさずにその公園へと足を運んでいる。 そして、同じ公園で、もうひとりの人物と知り合ったのだ。 それが、彼女。 毎週末、彼女はいつも僕のベストポジションにいて、少女が奏でる音を聴いている。 いや、「聴いている」というより「見守っている」という表現の方がふさわしいかもしれない。 だって、少女に向ける彼女の瞳は、母性愛に満ちたマリアのようなんだ。 週に一度、よくて二度会えるかどうかという彼女が、少女の奏でる音より気になり始めたのはいつだったかな。 そんな彼女からの、突然の贈り物。 しかも、自分が好む碧色のラッピングで。 中身は、甘さ控えめのチョコレートマフィン。 そして、今、僕の耳にあるピアス。 僕の誕生石であるトパーズが飾られているそれは、彼女を想う僕の気持ちを表すかのように常に輝いている。 彼女へのお返しは、もう決めてあるんだ。 その日はちょうど、週末の金曜日。 当日、彼女は午後からフリーだということも、すでにリサーチ済み。 僕はもう一度、彼女からの贈り物に視線を移す。 机の上にある淡い碧色の小箱の隣、先ほど父から渡された白い封筒に、僕は触れる。 中身は、彼女へのお返しの品。 「……きっと、喜んでくれるよね?」 彼女の驚く顔と、その後に見せてくれる優しい嬉しそうな笑顔が目に浮かぶ。 楽しみに待っていてね、僕の、大切な人。 |