序章 迷惑な魔法


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 海風に乗って潮の香りが優しく漂う、海沿いに位置する学校・星奏学院。
 学院の高校の正門から校舎への道のりには、妖精をモチーフにした銅像が建立されている。
 なぜ妖精の像なのかは、学院を創設するきっかけとなった話に由来するのだが、その本意を知る者は少ない。

 その銅像の周りを、突然、光がふよふよと漂い始めた。
 それは徐々に増え始め、仕舞いには無数の光の集合体となった。
 しかし、銅像の側を通る学生たちは気づいていないようで、何も反応することなく通り過ぎてゆく。


「全員、集まったか?」


 誰もいないはずの空間から、突然、無数の光とは異なる者が姿を現した。
 体長20cmくらいの小さな人型……人間、だろうか?
 背中には羽を携えている姿から、銅像と同じ形体を取っている生き物と見受けられる。

 ……ということは、『妖精』なのだろうか?


「リリ様、今日は何の集まりですか?」


 光の集合体の一部から妖精に向かって言葉が発せられた。
 よく見ると、無数の光の集合体も、やや小さいが、『妖精』と同じ人間の形体をしている。
 彼らの姿・形と口調から判断して、『リリ』と呼ばれた突如現れた妖精と思われる者は、彼らの仲間、あるいはリーダーなのであろう。

 その『リリ』は、こほん、とひとつ咳払いをすると、彼らに向かって言い放った。


「こうして皆に集まってもらったのは他でもない。本学院で、学内コンクールを開催するのだ!」


 リリの言葉に、彼らからは歓声と拍手が沸いた。それに気を良くしたか、リリは続けてこう言った。


「そうかそうか、皆もうれしいか! 我輩も皆の反応がうれしいぞ!
 それでな、我輩、コンクール開催に当たり、とても素晴らしい魔法を得たのだ!」


 彼らはリリに羨望と期待のまなざしを送る。どんな魔法なのか?視線はその質問を雄弁に語っている。
 リリはそれを確認すると、ぐふふ、とうれしそうに笑った。


「今夜、その魔法をかけることにする。結果は明日にでも現れるだろう。
 それを確かめるため、明日の夕方、またここに集まってほしい。連絡は以上なのだ!」


 彼らは個々にうなづくと、開催されるコンクールとリリが得たという魔法について語り合いながら、元の光となり、次々に消えていった。



 銅像前が、元の静けさを戻した。

 その中、リリだけがその場に残っていた。


「コンクールの開催と参加者はすでに決まった。あとは……魔法でコンクールを盛り上げるだけなのだ! 我輩はいいファータなのだ〜♪」


 再びぐふふ、と笑うと、リリは一瞬にしてそこから姿を消した。






 その夜。

 リリは突然、現れた。


 異世界に存在する者たちの「夢」の空間に。


『お前をトクベツにコンクールへ招待するのだ!
 明日の夕方、下校のチャイムが鳴る頃に、ファータ像の前に来るのだ。我輩、楽しみに待っているのだ〜!』


 「夢」の空間にいた『彼女たち』にそう言い放つと、ぐふふ笑いを残し、姿を消した。



 きらきらと光る、残像を残して――。