【 偶然と必然の狭間 I 】





そして、時空は再び流れて・・・



が再会して2年後。

この世界に来たばかりのは、一緒に来た望美・譲・白龍、そして朔・弁慶と共に、
戦場へと出向いた九郎を平等院で待っていた。



(これからどうなるんだろう・・・さん、さん、無事かな・・・ん?)

ふと感じた視線に顔を向けると、

「弁慶・・・さん?」

弁慶が、何やら思案顔でを見つめている。

「確か・・・さんでしたよね?」
「あ、はい・・・」
「間違ってたら申し訳ないんですが・・・」
「なんでしょう?」
「君の表情に少々見覚えがありまして。」
「表情に見覚え?」
「はい。・・・『』という名前に聞き覚えはありませんか?」

「っ!?」

「・・・あるんですね?」

「どうして・・・」

白龍の話では、もこの世界に既に来ている。
なので、弁慶がを知っていてもおかしくはない。
だが、それと『を知っている』事とは結びつかない。

そう思っても、出た言葉は『どうして』だけだったのだが、そこは相手が弁慶。
言いたい事はしっかり読んでくれる。

「外見年齢と実年齢、同じではありませんね?」

「っ!?」

言葉は疑問形だが、顔は確信していると語っている。

「現在、は熊野にいます。」

「熊野に!?」

「ええ。僕は彼女に会ってますから。」
さんに・・・」
「彼女から全て聞いています。年齢の事も。」
「でも、どうして私も・・・?」
もそうですが、貴女達は大人特有の表情をするんですよ。」

「・・・はぁ。」

大人特有の表情と言われても、当然ピンとはこない。

首を傾げるに、クスリと笑いながらも先へ進める弁慶。

「外見は大体・・・16歳くらいだとは思いますが、実際は違いますよね?」
「・・・はい。」
「やっぱり。そうそうは今、18歳になってますよ。」
「・・・え?18歳?」

最後に見たは、自分よりも年下に見えたはずだと思うに、

「彼女がこの世界に来たのは、4年程前ですから。」
「4年!?」
「ええ。あの頃の彼女は、まだまだあどけなさの残る少女でしたが。」
「・・・・・」

本来の彼女を知ってるだけに、何も言えない
そんな彼女に頷きながら、

「ええ。あの頃から、中身はなかなかに侮れない女性ですけどね。」

貴方も十分に侮れないです・・・とは思っても、口には出せない





「今の話・・・どういう事です?」

突然後ろから聞こえてきた聞き覚えのある声に、の身体がビクッと揺れる。

「え?・・・譲くん・・・?」



「おや、聞こえてましたか?」

全く驚いていない弁慶に、実は気付いていたのだと悟る。

「彼女は、君達と出会う前の時空の狭間で、外見の時間のみが遡ったそうですよ。」

「時空の狭間で・・・?遡った・・・?」

「そうです。あのままあの場所に居たら・・・消滅していたと聞きました。」

「えっ!?」

驚いたようにを見る譲に、コクンと頷いて答える。
そのまま弁慶を見るその表情は、『どうして?』と言外に語っていた。

「何故僕が、こんな話を彼にするのか・・・ですか?」
「・・・はい。」
さん?」

いずれ話さなければいけない事だとしても、何故、こんな初対面に近い状況で?
と、は聞きたいのだ。
もちろん、弁慶には分かっている。

「こういう事は、今でなければきっと・・・」
「きっと・・・?」
「話せなくなりますよ。特に彼には。」

「・・・俺には?」
「どういう意味ですか?」

そんな2人に対し弁慶はにっこりと、どこか意地の悪い笑顔を向けて、

が熊野に現れたのは、ヒノエと僕が居たからだと思っています。」

「え?」

さんがあそこに現れたのも、彼が居たから。」

さん?彼?」

「そして、さんが今ここに現れたのは・・・おそらく・・・」

「・・・え?」

「・・・俺?」

弁慶の視線の先で意味が分からず、キョトンとする譲と、
意味が分かり、真っ赤になる

それを満足そうに眺めて、

「これは、の発案ですよ。」

「・・・・・えぇ!?」










多分、は何人かと一緒にこの世界に現れると思うの。
でもその場合、私達の事情を彼に話せるとは思えない。

状況もだし、の性格上・・・多分ね。

こういうのって、どんどん話せなくなっていくものだと思うんだよね。
仲良くなればなるほど・・・話せなくなる。
こんな事で、にそんな思いさせたくないから。

って事で、弁慶よろしくね。

え?の顔を知らない?
そんなの・・・弁慶には関係ないでしょ、彼女の顔を見ればね。










「と、言われてたんですよ。」

「・・・さん・・・」

(この腹黒軍師まで使うか、あの人は・・・)

がっくり項垂れるに、クスクス笑う弁慶。

の侮れなさも、なかなかですよね。」
「そんなの・・・十分過ぎるほど知ってます。」

しかも、この人選にするあたり・・・やっぱりだ。

そんな2人を見つめ、何となく憮然とする譲。

「どうしました、譲くん。」
「なんでもありません。」
「そうですか?あ、そろそろ九郎が帰ってくる頃ですから、僕はこれで。」

やっぱりクスクス笑いながら離れていく弁慶に、何とも言えない気持ちになる2人。

「あの・・・譲くん・・・」
さんの、俺の知らない話・・・聞かせてほしい。」
「うん・・・驚かないでね。」
「今で十分驚いてるから、大丈夫だよ。それに・・・」
「それに?」
「いや、さんの話を聞かせてよ。」



それに・・・自分の知らないの事を、弁慶が・・・いや、他の男が知ってる事が、
嫌だと感じてしまう自分の気持ちに、少々戸惑いながら、譲はの話を真剣に聞く。



全部聞き終えて、

「話てくれてありがとう。今の話、全部弁慶さん知ってるのかな。」
「弁慶さんの知ってる事は、さんの事だけだと思うから。」
「じゃあ、全部は知らない?」
「多分・・・」
「そっか・・・」

若干嬉しそうな譲に首を傾げながらも、話せた事にホッとする

「なぁ・・・弁慶さんも言ってたけど。」
「うん?」
「その外見って、確かに16歳くらいにしか見えないから、16歳って事にしとけば?」
「そうだね。年齢も必要になる時がくるかもしれないし。」

は現在18歳だと言ってた。つまり、現在の年齢を決めているという事だ。

「俺と同じ年なのは・・・嫌?」
「そんな事!・・・じゃあ、16歳って事でお願いします。」
「こちらこそ。」

2人顔を見合わせて笑いあった時、2人を呼ぶ声が聞こえてきた。

「九郎さんが戻ったみたいだね。」
「あのさ・・・」
「ん?」
さんの事は俺が守るから。」
「・・・え?」
「頼りないかもしれないけどさ、俺の傍に居てよ。」
「うん・・・宜しくお願いします。」
「うん。」





2人、真っ赤になりながら戻ってきた事に、気付いたのは弁慶だけだった。