【 偶然と必然の狭間 H 】
木々が生い茂る山の中。
かろうじて日の光が見える、そんな薄暗い場所でヒノエは歩みを止める。
「着いたぜ。」
「・・・え?」
ヒノエの言葉に首を傾げる。
将臣も辺りを見回すが、人の姿は見えない。
そこへ・・・
「!!!」
「っ!?!?」
の声に辺りを見回すが、やはり誰もいない。
「ヒノエ!1人じゃどうにもならないよ!」
「分かってる。」
「「 ??? 」」
将臣とが顔を見合わせている間に、ヒノエの姿が消える。
「え?ヒノエ?」
「さっきの声は、頭上から聞こえてきたと思うが・・・」
「頭上?」
2人が見上げると、木のかなり高い所にヒノエの姿が・・・それと・・・
「!!!・・・こわっ・・・」
「あんな所に置いとくか・・・普通・・・」
ヒノエに抱きかかえられ、飛び降りてきたのはまぎれもなく。
にとっては2年ぶり。
にとっては1年ぶりの再会。
「!ホントにだ!」
「・・・」
思わず涙ぐむ2人を眺めつつ、ヒノエと将臣は少し離れる。
自分達がいたのでは、話しづらい事もあるだろうという配慮だ。
「は熊野にいるの?」
「うん。堪快に拾われた。は平家側にいるんだよね?」
「そう。将臣君が話してくれて・・・」
「って事は、若干将臣君の方が先に来てたんだ。」
「そういう事に・・・なるのかな?」
「なぜに疑問系?」
「気にしてなかったから・・・知らない。」
「まぁ、らしいっちゃ、らしいか。」
「どういう意味だ。」
顔を見合わせひとしきり笑った後、2人は真剣な表情になる。
この表情に、ヒノエはの年齢も外見通りではないと悟る。
「これってどういう事?」
の問い掛けに、首を横に振りながら話し出す。
「私にも分からないけどさ、これだけは言えるよ。」
「何?」
「は、源氏側に現れる。」
「・・・確かに。」
「多分、望美ちゃんや譲君、白龍と一緒に現れるんじゃないかな。」
「の勘?」
「うん。」
「じゃあ、そうなんだ。」
あっさり頷くに、の方が苦笑する。
「・・・私の勘を信じすぎ。」
「だって当たるじゃん。」
何を当然の事を・・・とでも言いたげなに、やっぱり苦笑するしかない。
「1人1人の立場があまりにも違いすぎるってのは、結構気になるよね。」
「うん。完全に源氏側、平家側、熊野に別れちゃってるもんね。」
「まぁ・・・ここで考えても出るような答えじゃないだろうけど。」
「流石にね〜・・・無理だよ。」
「でも、とりあえずが無事で良かった。」
「それはもだよ!それに、がここにいるって分かって、すごく心強い。」
「それは私も。やっぱり不安だったもん。」
「うん。」
「俺じゃ頼りにならないって事かい、姫?」
「俺なりに守ってきたつもりなんだがなぁ、?」
「「 っ!? 」」
わざとらしく首を振りながら、寂しそうに言うヒノエと将臣に、顔が引きつる2人。
「いつもは姫なんてつけないくせに、こんな時だけ・・・」
「え、そうなの?いつも姫って呼ばれてんのかと思ってた。」
「ないない。」
「じゃあ、普段は何て?」
「って呼んでるぜ。なんせ許嫁だしな。」
が答えるより先に、後ろから抱き締めるような形で腕を回し、肩から顔を出して言うヒノエ。
それに対し、が反応するより先にが騒ぎ出す。
「ヒノエ!それは堪快が勝手に言ってるだけでしょうが!」
「も断らなかったじゃねぇか。」
「そんな暇が何処にあった!?」
「えっと・・・?」
「ああ、堪快がね、私の事を説明する時に、『いずれ一族に加わるかもしれない娘』って言ってたのよ。」
「一族に・・・」
「それが、いつの間にか『ヒノエの許嫁』って噂になっちゃってて。」
「それで?」
「堪快が面白がって・・・そういう事にしちゃってんの。」
堪快を思い出しつつ、ありえるなぁ・・・と苦笑する。
そこへヒノエが首を傾げながら、
「でも確か・・・平家の姫も誰かの嫁になる予定だって聞いたぜ。」
「そうなの!?」
「・・・平家の姫って・・・誰?」
「の事。」
「・・・・・えぇ!?・・・嫁!?」
「ああ、それ俺の嫁だ。」
「・・・・・はいっ!?」
将臣の爆弾発言にすっかりパニックに陥る。
そのは放っておいて、将臣に首を傾げながら聞く。
「何で、そんな話になってんの?」
「ん?」
「本人は全く記憶にないみたいだけど?」
「ああ・・・清盛が法皇にの事を説明する時に、そう言ったみたいだぜ。」
「将臣君の嫁になる予定の娘だって?」
の最後の質問に、肩を竦める事で答える。
「ふ〜ん・・・可愛がられてるんだね、安心した。」
ホッとした表情のに、なんとか復活したが首を傾げる。
「今の話から、何で可愛がられてるって事になるの?」
「ん?堪快の場合もそうだけど、そういう風に言っとくのが1番安全だからね。」
「あ・・・私らを守るために・・・?」
「そういう事。」
「そっか・・・」
少しくすぐったそうに笑うを優しく見下ろす将臣。
う〜ん・・・と思いながらがヒノエを見ると、ちょいちょいと手招きされる。
「ん?」
「そろそろ帰るぜ。」
「ああ、そうだね。にも会えたし・・・ありがと、ヒノエ。」
「どういたしまして。」
その声が聞こえてきたが、少し寂しそうに、それでも精一杯の笑顔で、
「帰っちゃうんだ。また・・・会えるよね?」
「会えるよ。同じ世界にいるんだしさ。」
「そうだよね。じゃあ、それを楽しみにしてる。」
「今度会う時は、も来てるかもね。」
「次は3人かなぁ〜そう思うと待ち遠しいなぁ。」
その場で別れ、反対方向に歩き出す。
それぞれの場所で、待っていてくれる人達の元へと・・・
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