【 想いの果てに・・・C 】





屯所の前まで来て立ち止まる、

そんな2人の背中を、そっと押す沖田と藤堂。

「大丈夫ですよ、行きましょう。」
「俺らは、ずっとここに居るからさ。」

は顔を見合わせ、コクンと頷く。





ここで放り出されて困るのは、彼女達の方だ。

そして何より彼女達は、自分達の幸運をよく分かっていた。

この世界に来て、初めて出会ったのが彼らだった事。そして、自分達が2人だという事。

この事に気付かないほど、彼女達は世間知らずではない。




















屯所の中へと入っていくと、皆が物珍しそうに見てくる。

女だというのも理由の1つだが、何よりも彼女達が着ているモノ。
連れているのが、沖田、永倉、原田、藤堂であるが故に、何も言ってこないが・・・
それでもその視線は、あまり気持ちの良いものではない。

「・・・うざい・・・」
「オメーなぁ、仕方ねぇだろ少し我慢しろよ。」

ボソリと呟くに、永倉が呆れ顔で答えながらも、身体で視線を遮ってやる。

「ありがと。」
「おう。」











そして一行は、近藤の部屋の前までやってきた。

「さぁ、入るぞ!」

「「 おう! 」」

永倉、原田、藤堂が気合を入れたところで、

「俺に何か用かい?」

後ろから声が掛かる。

「「「 うわっ!? 」」」

ちなみに、沖田は後ろから来る近藤達に気付き、に教えていた。

「近藤さん、土方さん・・・ああ、山南さんも一緒なんですね、丁度良かったですよ。」

にっこり笑う沖田に対し、土方は眉間に皺を寄せて、

「総司・・・そいつらは?」
さんとさんです。」
「誰も名前なんざ、聞いちゃいねぇよ。」
「そうですか?」
「総司・・・てめぇ・・・」

「ほらほらトシ、そんな恐い顔をするから、彼女達が怯えてるじゃねぇか。なぁ?」

「「 へ? 」」

近藤に、いきなり話を振られたは、きょとんとしている。
この2人、別に怯えていたわけではなく、ただ単に傍観者に徹していただけなのだ。

『お前ら、当事者だろうが・・・』とは、誰の心のツッコミか敢えて名は出さないでおこう。




















近藤の部屋へと入り、自分達の見た事、聞いた事を全て話す沖田達。

その内容は、信じ難いものだったが、

『冗談はそれくらいにしておけ』と、切り捨てるには、達が着ている物が奇天烈過ぎる。

そして何より、が持つ雰囲気が、それを肯定しているように感じるのだ。

だが、それでもこの2人が、敵の間者ではないとは、言い切れない。





近藤と土方が目配せをし、近藤はの、土方はの前へ行き、2人に向かって殺気をぶつける。

当然、今まで1度もそんなものを感じた事のない、は、
それが何なのか分からないまま震え、背中を冷や汗が伝うが、全く動けない。

視線さえ、逸らす事が出来ない。

これは演技ではない、演技で出来る反応ではない。
その事は分かっているのだが、近藤、土方もまた、2人から視線を逸らせなくなっていた。



「近藤さん、もういいだろ!」
「土方君、君もだよ。」



その言葉と共に、永倉と山南がその腕の中へと、を抱き込む。










永倉の腕の中で、なんとか落ち着いたは、チラリと近藤を見、そしてまた震える。

近藤が何故こんな事をしたのか、その理由はよく分かっていた。
だからこそ、自分の中に芽生えた、近藤に対する恐怖を取り除きたかった。

「近藤さん・・・」
「・・・何だい?」
「・・・一発殴らせて。」
「・・・・・え?」

その発言に驚いたのは、当然近藤だけではない。
だが、震えながらも真っ直ぐ近藤を見つめるに、何も言えなくなる。

「ああ・・・いいぜ。」
「近藤さん!?」

驚く土方を目で制し、を自分の前へと促す。



パンッ!



小気味良い音が響き、殴った手で、殴られた頬にそっと触れる。

「どうだい?」
「こわ・・・かったんだからね・・・」
「・・・ああ。」
「本当に恐かったんだからね!」
「ああ、すまない。」

頬に触れている手を引き寄せ、強く抱き締める。それを見ていた土方がの方を見、

「お前も殴るか?」
「・・・えぇっ!?」
「俺は構わんぞ。」
「無理です!絶対に無理です!!!」

必死に首を横に振るに、山南が追い打ちをかける。

「遠慮しなくてもいいんだよ?」
「遠慮なんてしてません!」
「こんなチャンス、二度とないかもよ?」
!?」

ニヤッと笑うの顔は、完全に面白がっている。

「これから一緒に生活するんだ、わだかまりはない方がいいんじゃないかい?」

「「 え? 」」

近藤の言葉に驚くに、彼は笑顔で頷く。

「って事で、行け♪」

「行けるかぁ!!!」



















その後、斎藤、山崎、井上、桜庭に紹介され、着物を借りる為、桜庭の部屋へと行く。
この部屋の続き間が、2人の部屋となった。

「ん〜〜〜これもいいんじゃ・・・あっ、こっちも似合いそうね。」

その場を仕切っているのは、当然と言えば当然なのかもしれないが、何故か山崎だった。
取り出すのは袴ばかり。男所帯だから・・・という山崎の配慮だった。

ちゃんはこっち。ちゃんはこっちね。」

は桃色〜赤系、は水色〜青系で頭の上から足の先まで山崎に、コーディネイトされてしまった。




















屯所の近くで、中を窺っている男が居た。

その男の名は、才谷 梅太郎。当然、偽名だ。

まだ、新選組の者達と全く面識がない為、それ以上は近寄れないが、才谷には、どうじても確かめたい事があった。





実は、がこの世界に現われた瞬間を、この才谷も遠くから見ていたのだ。
興味を惹かれ、その場所へと向かう途中で見た、沖田におぶさった

そして、もまた才谷に気付き、声に出さず口だけが動いたのだ。

『梅さん・・・』と。





「おっ、あの子じゃ・・・」

袴姿に着替えたが、門の所に立って誰かを探している。
直感的に自分の事だろうと思い、近付く才谷。

「あっ・・・やっぱり居た・・・」

その姿を見つけ、苦笑するに、

「おまんは、わしを探しちょったんじゃろ?」
「まぁね。」
「名は?」
。」
「わしは、才谷梅太郎、知っちゅうが。」
「梅さん・・・で、いいんだよね?」

頷き、視線で先を促す才谷に、溜め息をつきつつ話し出す
この人にも、全てを見られていたのだと、何故かそう思っていたから。





全てを聞き終わり、満足そうに帰って行く才谷を見送るに、が近付く。

「あら〜梅さんも登場しちゃったんだね。」
「ってかあの人、最初から登場してるんだよ。」
「・・・どゆこと?」
「私が落ちてきたトコを、どっかから見てたんだと思うんだよね。」
の勘?」
「うん。」
「じゃあ、多分そうなんだ。」

の勘が、侮れない事を十分に承知しているは、それだけで納得したのだった。